王冠をかぶった女王の横顔。
四つの盾と、その間に咲く小さな植物模様。
文字まで装飾のように見える、ゴシッククラウン。
ゴシッククラウンは、1847年に英国で初めて発行された、ヴィクトリア女王の肖像を描く銀貨です。
中世を思わせる文字や衣装が特徴で、「ゴチッククラウン」と表記されることもあります。
原作では、女王の肖像と、四つの盾を並べた紋章が、一枚の表裏に描かれています。そのデザインは現代にも受け継がれ、金貨や銀貨として楽しめるようになりました。
ここでは、名前の意味から、図柄に込められた英国の歴史、現代版との違いまでをご紹介します。

王冠を載せた四つの盾と、周囲を彩る細かな装飾。
「クラウン」は、5シリングを表す額面の名前
クラウンと聞くと、王冠を思い浮かべるかもしれません。
コインの名前に使われている「クラウン」は、当時の英国の額面を表しています。
1クラウンは5シリング。ゴシッククラウンも、この額面で作られた銀貨です。
つまり、ゴシック様式を取り入れたクラウン銀貨という名前です。
同じウィリアム・ワイオンの作品として知られる、1839年の「ウナとライオン」は5ポンド金貨。二つは、素材も額面も異なります。
なぜ「ゴシック」と呼ばれるの?
ゴシッククラウンが生まれた19世紀の英国では、中世の建築や装飾が改めて注目されていました。
この動きは「ゴシック・リヴァイヴァル」と呼ばれます。
昔の様式を、その時代の建築や芸術に取り入れる流れです。
ゴシッククラウンにも、その好みが表れています。
女王の王冠や髪形、衣装。そして、周囲を囲む中世の手書き文字のような書体。
小さな一枚から、当時の英国で親しまれた美意識が伝わってきます。
「ゴシック」という名前は、こうした文字や装いに取り入れられた様式に由来します。
紋章面の十字状の配置だけを指しているわけではありません。
彫刻を手がけたウィリアム・ワイオン
ゴシッククラウンの彫刻を手がけたのは、英国王立造幣局の彫刻家ウィリアム・ワイオンです。
ワイオンは、1839年の「ウナとライオン」でも知られています。
制作には、画家ウィリアム・ダイスも関わりました。
王立造幣局は、ダイスの作品がデザインの着想源になったと説明しています。
華やかな肖像や、細部まで組み合わされた装飾。その背景には、彫刻家と画家の関わりもありました。
ゴシッククラウンのデザインを見る
王冠と衣装をまとったヴィクトリア女王
1847年の原作に描かれているのは、左を向いたヴィクトリア女王です。
華やかな王冠に、耳の周りに編まれた髪。
衣装には、イングランドのバラ、スコットランドのアザミ、アイルランドのシャムロックがあしらわれています。
シャムロックは、三つ葉の植物をかたどったシンボルです。
顔立ちだけでなく、王冠や服の模様にも目を向けると、肖像の見え方が少し変わってきます。
四つの盾に描かれているもの
もう一方の面には、王冠を載せた四つの盾が、十字を描くように並んでいます。
1847年の原作の紋章面を正面から見ると、上下の盾にイングランドの三頭のライオン、右にスコットランドの立ち上がるライオン、左にアイルランドのハープが描かれています。
四つの盾のうち、イングランドの紋章が二か所に配置されています。
盾の間に見えるのは、バラ、アザミ、シャムロック。
女王の衣装にも使われていた、各地を表す植物です。
中央には、ガーター勲章の星章を表した意匠が置かれています。
掲載しているセントヘレナ銀貨でも、盾のライオンやハープ、中央の星形の意匠を見ることができます。

ライオンやハープを描いた盾の間にも、細かな装飾が広がっています。
文字も、デザインの一部
1847年の原作では、肖像側にヴィクトリア女王の称号などを示すラテン語が刻まれています。
紋章側には、結びついた国々を神が守るよう願う言葉と、年号が入っています。
「MDCCCXLVII」は、ローマ数字で1847を表します。
この文字や年号は、原作の意匠を受け継ぐ現代版にも見られます。刻まれた数字が、必ずしもそのコイン自体の発行年を示すとは限らないところも、知っておくとわかりやすくなります。
文字の形を眺め、そこに書かれた言葉を知る。模様のように見えていた部分からも、歴史が見えてきます。
ヴィクトリア女王の肖像を受け継ぐ現代版
現代のゴシッククラウンには、ヴィクトリア女王の肖像を主役にしたものと、四つの盾の紋章を主役にしたものがあります。
もともとは、1847年の一枚の表裏だったデザインです。
王立造幣局の「グレート・エングレーバーズ」では、その肖像面と紋章面を、それぞれ別のコインとして再現しています。
そのため、四つの盾が見当たらなくても、ゴシッククラウンの肖像を受け継いだコインということがあります。
横顔の美しさに惹かれるか、紋章や装飾の細かさに惹かれるか。二つの図柄を見比べる楽しみもあります。
ゴシッククラウンは銀貨だけ?
1847年の原作は銀貨ですが、現代版には金貨も銀貨もあります。
王立造幣局でも、ゴシッククラウンのデザインを金と銀の両方で再現しています。
同じ図柄でも、素材によって印象は変わります。
銀の色合いで細かな模様を楽しむことも、金の温かみのある色に惹かれることもあると思います。
現在「ゴシッククラウン」として紹介されるコインには、原作からデザインを受け継いだ、さまざまな素材や額面のものがあります。
1847年の原作と、現代版との違い
1847年の原作は、ヴィクトリア女王の肖像と四つの盾を、一枚の表裏に配した英国のクラウン銀貨です。
現代版では、発行地や年号、額面、素材、組み合わせる肖像などに違いがあります。
セントヘレナでも、ゴシッククラウンのデザインを受け継いだ銀貨が発行されています。
この記事で掲載しているのは、2022年セントヘレナ「ゴシッククラウン」2ポンド銀貨。紋章面の反対側には、エリザベス2世の肖像が描かれています。

紋章デザインとエリザベス2世の肖像を組み合わせた一枚。
NGC PF70 ULTRA CAMEO。
原作が生まれた時代に惹かれることもあれば、現代のコインでその模様を手元に迎えたくなることもあると思います。
どこで、いつ発行された一枚なのかを知ると、同じデザインから生まれたコインそれぞれの違いも楽しめます。
鏡のような背景と図柄の質感の違いなど、仕上げに興味が湧いた方は、プルーフコインとは?でもご紹介しています。
ゴシック・フローリンとは違うもの?
似た名前のコインに「ゴシック・フローリン」があります。
こちらも、王冠をかぶったヴィクトリア女王やゴシック調の文字が特徴の銀貨です。
1フローリンは2シリング。
5シリングのクラウンとは、額面が異なります。
ゴシック・フローリンにも、四つの盾を十字状に並べた図柄があります。
紋章面には「ONE FLORIN」「ONE TENTH OF A POUND」という額面を示す文字が入っています。
似た肖像や紋章があっても、同じ種類のコインとは限りません。
刻まれた文字を眺めると、その違いも見えてきます。
ゴシッククラウンの魅力
ゴシッククラウンには、女王の横顔に目を引かれる人も、紋章面が好きな人もいると思います。
王冠や衣装の細かな模様。盾を囲む装飾。
円に沿って並ぶ文字。
同じ一枚でも、眺める場所を変えると、違う表情が見えてきます。
英国の歴史が好きな方にとっては、女王や紋章から時代をたどる楽しみがあります。
装飾やデザインが好きな方なら、文字の形や模様の並び方が気になるかもしれません。
最初は、「この横顔が好き」「この模様を手元で見てみたい」。
そんな気持ちから楽しめるコインです。
写真で気になった細部を、手元でもう一度眺める。
そこから歴史を知ったり、同じ彫刻家の別の作品に興味が広がったりすることもあります。
好きだと思った図柄に、知る楽しみが少しずつ重なっていく。ゴシッククラウンには、そんな付き合い方も似合います。
FALJU COINSのコレクションでは、各コインの写真や鑑定評価に加え、図柄の見どころや歴史的背景もご紹介しています。
手のひらに収まる、歴史と芸術。
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FALJU COINS
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